深夜の国道を不安なエンジン音を響かせながらワインレッドのオンボロ車が我が物顔で走っている。 開け放した窓から吹き込む風は光の灯った闇の色で私の結わえきれなかった髪の毛をなびかせていた。 「君のために貸し切ったよ」と愚かな嘘を簡単に吐く彼に嬉しいと微笑んで、私は歩道に咲く小さな花に手がとどきはしないだろうかと考えていた。 たとえるなら、天気予報と同じ。 最初から信用などしていないからどんな嘘を吐かれても腹も立たない。 遠くから聞こえるエンジン音。 ブォーンでもダダダダでもない。 ワインレッドのオンボロ車よりはかなりマシ。 大型の深夜トラックが彼の横を通りすぎる。 「おかしいな」おかしいなと彼は呟いた。 「何か手違いがあったのかもしれない」 この一直線にのびた国道はその昔、滑走路として整備されたものだときいた。 ここからたくさんの心優しい嘘つきが赤い炎と血の中へ銀色に光る鉛玉となって飛んでゆくはずだったのだ。 私は目を閉じ、そして想像した。 傷だらけの車体、凹んだボディの左右から同じ色の翼がにょきにょきと生えてくる。 すり減ったタイヤは寿命の近いエンジンにムチを打ち加速して、新しい風は両翼を浮かせそのまま闇空へと連れ去ってゆく。 私は知らず知らずのうちにハンドルを握る彼の手に自分の手を重ねていた。 親指をぐっとのばしてクラクションを長く長く響かせる。白いけぶり。合図。 驚きの声を上げた彼に微笑みかけて私は尖ったヒールの先で彼のスニーカーの上から強く強くアクセルを踏み込んだ。 いつかすれ違ったトラックのように、私たちはそうして目的地を目指すのだ。 |