彼の名前は少年R。
どこにでもいる高校生。
ただ少し違うのはみんなから少年Rだなんてヘンテコな名前で呼ばれてるってこと。
彼は間違っても大量殺人鬼ではないけれど何故だかみんな彼をそう呼ぶ。
「少年R!」
そして彼はいつも寝癖だらけの頭を掻きながら振向いて、愛想のない返事を返すのだ。
けれどもみんな少年Rが大好きで、少年Rもみんなが大好き。
だからたまには焼きそばパンを奪い合ったり、苺ミルクを回し飲みしたりする。
まぁ、一言で言うと毎日が幸福なる平平凡凡。
ああ、そうだ。彼の本名の話をしておこうね。
彼の名前は……隆一、良介、いや、リチャードだったかな…………。
少年Rは寒がりだ。なのでなるべくなら冬は出歩きたくないと思っている。
いや、間違えた。少年Rは面倒臭がりなのでいつもなるべくなら家にいたい。
でもまぁとにかく、そんなわけで(どんなわけで)少年Rは冬が嫌いだ。
しかし、かといって学校に行かないわけにも行かない。
だから少年Rは冬になると茶色いロングコートと手袋、母親の買ってきた一応カシミア100%だという1980円のマフラーをびっちり着込んで学校に行く。
(玄関にいる犬のヤスオに挨拶をするのを忘れない)
それでも寒い時は我慢。
少年Rはよく歩く。自転車には乗れない。彼は車輪が2つ以下の乗り物は信用していない。
白い息を吐きながら追い越してゆく車と自転車の数を数える。
学校に到着するまで、それが偶数か奇数かで少年Rのその日半日が決まる。
幼い頃、死んだ父親が言っていた迷信。
半分しか隠せなかった耳が冷たい。
奇数の今日は何か一波乱ありそうだった。
少年Rはまだ明るくなりきっていない空を見上げる。
父親のいうことなんてあまり信じていないけれど、本当はちょっぴり信じている。
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