はらがへる

  この世には、不可解なことがたくさんあるので困ってしまう。困ってしまうと、なんだかお腹が空いてしまって、切なくって切なくってしょうがない。
「カナちゃん、わたし、お腹空いたな」
 かってしったるなんとやらで(わたし自身はカナちゃんをそんな風には思いたくないのだけれど)カナちゃんの家にずかずかと上がり込み、3畳1間の真ん中で、空腹を訴えた。
 カナちゃんは丁度、水を使っている最中で、じゃあじゃあと景気良く蛇口を捻っている。その後ろ姿はまるで“おかあさん”というもののようで、わたしの胸はきゅんとした。しかし、カナちゃんはそんなわたしの胸の痛みなど考えもせず「もう片付けちゃったよ」とわたしの方も見もしないのでムッとする。
「片付けちゃった、ってねえ、わたしがくるかもしれないのに、どうして片付けちゃったりするのよ」
ムッとしたのでそう言った。
 水の流れる音が止んで、カナちゃんが振り返ると、わたしはカナちゃんの暗い目をじっと睨みつけた。カナちゃんは本当に、ほんのちょっと、気がつかないくらい短な間だけわたしを睨みかえすと、部屋のすみに投げ出された、くたびれたカバンから、ウグイス色のがま口を取り出して、私の手に握りこませた。
「これで、好きなものを買っておいでよ。それで、自分のうちに帰っておなかいっぱい食べるんだよ」
「いやだよ。わたし、本当にお腹が空いてるんだよ。カナちゃんが何か作ってよ。そうじゃないと、死んじゃう」
「冷蔵庫の中、からっぽだもん」
「そんなことない。どうしてそんな意地悪言うの」
 冷蔵庫の中がからっぽなのは知っていた。
 カナちゃんは、近くのスーパーの開店時間に合わせて、その日1日、自分が食べる分だけの材料を買う。珊瑚、翡翠、橄欖石、紫水晶、そんなものばかり買ってきて食べる。毎回同じドレッシングにも、私はもうすっかり飽きてしまったというのに。もうそろそろなくなる。今度こそ違うのを買ってきてやろう。そう思っているうちに同じ顔をした真新しいビンが流しの上の棚に並べられるのだ。
 わたしの腕を掴んだままのカナちゃんの手首を抓る。カナちゃんが短な悲鳴をあげる。
「カナちゃんが意地悪だからだよ」
 落ちた財布を拾い上げ、わたしはカナちゃんの部屋を後にした。